『羊と鋼の森』のレビュー

概要

『羊と鋼の森』は、鈴木光司さんによる小説であり、2015年に第153回芥川賞を受賞した作品です。物語は、鋼琴調律技師である主人公・鼓弦（こげん）が、人生に悩みながらも調律師として成長していく姿を描いた作品です。

鼓弦は、大学を中退してから鋼琴調律師になりました。彼は、天才的な技術を持っていましたが、不器用で人付き合いが苦手な一面もあります。そんな中、かつての担当教官である先輩調律師・岸田に出会い、彼の指導のもと、調律師として成長していくことになります。

しかし、鼓弦は岸田の出世欲や偽善に嫌悪を抱き、彼と袂を分かつことになります。その後、鼓弦は一人暮らしをしながら、調律師としての腕を磨いていきます。そして、かつての恋人である病気のピアニスト・豊雨（とよめ）と再会し、彼女のために全力で調律を行います。

この作品は、必ずしも華やかな世界ではなく、調律師という職業や、音楽に対する独特の感性が描かれている点が非常に興味深かったです。また、主人公の鼓弦の性格が、繊細である一方で個性的であるという点にも共感を覚えました。

ただ、物語の途中での展開が少し緩急があると感じる点がありました。また、鼓弦の成長が感じられる描写はあるものの、それ以外の登場人物の掘り下げが浅かったという点も気になりました。

『羊と鋼の森』は、音楽や調律師というテーマに興味がある方にはお勧めの作品です。主人公の個性的な性格と彼の成長過程も興味深い点です。ただ、物語の緩急や、登場人物の掘り下げが浅い点は改善の余地があります。総合的に見て、3.5/5の評価をつけたいと思います。

参考書籍：
鈴木光司『羊と鋼の森』（新潮社刊）